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ミラクルショット2002

Scan11888.jpg

“レジー・ミラーが足首を捻挫したというニュースを聞いて、ユミエはとても心配していた。声にはその気持ちが表れていた。

「レジーは大丈夫なんですか?」電話インタビューのとき、彼女は日本の自宅からそう問いかけてきた。

 ミラーほどのバスケットボールプレイヤーともなると、もちろん崇拝者はおおぜいいる。しかしユミエはそのなかでもずば抜けて熱狂的なファンのひとりと言っていい。今年の4月、ユミエは友人たちと一緒に、何試合かのNBAの試合を観るためだけにアメリカへ旅をした。そして来週また、2人の友人たちと、バスケットボール世界選手権の試合を観るためにインディアナポリスに戻ってくる。ユミエにとっては、レジー・ミラーを観るための新たなチャンスだということだ。……”

 2002年8月31日付のインディアナポリス・スター紙に載った記事の冒頭部分はこんなふうでした。

 えっと……お気づきかもしれませんが、この「ユミエ」さんてわたしのことです。

 なんでこんな記事が書かれたか、そしてこの記事がきっかけでそのあとどんな事件が起きたかというのは、すでにツイッターや飲み会ではちょいちょい小出しにしてる話ですが、このいきさつは一度きちんと文章にまとめてみたいと思ってました。いかんせんだいぶ昔の話で、しかも書いてみたらえらく長い話になっちゃったんですけど、オフシーズンの退屈しのぎにでもしていただければ幸いでございます。16年前の夏の個人的な回顧録です。

***

 ペイサーズの本拠地であるインディアナポリスは、実にこぢんまりとした都市でして、ちょっと大きなイベントがあると中心地のホテルがすぐ満杯になります。わたしも観戦旅行の日程がNCAAのファイナル4とかNFLドラフトコンバインとかにぶつかり、何度か「ホテルぜんぜん取れねえ…!!」という事態に直面したことがあります。2002年の春に渡米しようとしたときには、どういうわけかインディアナポリスで消防士のコンベンション(!)をやってまして、いったいどんだけの消防士がインディに集まってたのか知りませんが、どれだけ探してもダウンタウンで泊まれそうな場所がまるっきりなし。そんなわけで苦肉の策として、街はずれのB&Bを利用してみたんです。

 B&B、いわゆるベッド&ブレックファスト。日本で言うとペンションみたいな感じかな。おしゃれなおうちに宿泊できて、手作りの朝食がつくっていう個人経営の宿。わたしが泊まることにしたB&Bは、ダウンタウンからはだいぶ離れてるものの(アリーナから歩くと20分ちょっとぐらい)、実際に行ってみたら部屋可愛いし朝食美味しいし、オーナーご夫妻もすっごく素敵な人たちでした。ご主人のスティーブさんがペイサーズ好きで、レジーを観に日本から来ましたって言ったらすごくうれしそうに笑ってたのを覚えています。

 このB&Bをすっかり気に入ってしまったわたし、スティーブとも「次にインディアナに来るときまた来ます!」って約束して帰ったんですが、その約束を果たすチャンスは意外と早くやってきました。その数か月後、つまり2002年の夏にインディアナポリスで開催されるバスケットボールの世界選手権に、ペイサーズからもレジー・ミラー、ジャーメイン・オニールが出場することになったんですね。インディアナ開催の選手権でレジーさんたちがナショナルチームでプレーするって、これはもうぜったい行くべきじゃね? 準決勝・決勝ぐらいだったら弾丸ツアーで行けそうじゃん?(もちろんアメリカがその前に負けるはずがないという前提) 試しにチケット取ってみたらあっさり良席取れちゃって、それならせっかくだからまたあのB&Bに泊まろうってなって、スティーブに連絡して予約をお願いしたんです。

 その後しばらくして、そのスティーブからこんなメールが届きました。

“日本一のレジー・ミラーファンである君の話をあちこちでしてたんだ。そうしたら今日、われわれのローカル新聞、インディアナポリス・スターの記者という人から電話が来た。ウィル・ヒギンズという記者で、君のペイサーズやレジー・ミラーに対する熱狂ぶりについて話が聞きたいと言っている……もし君さえよければだけど。君の名前が新聞に載るなんて楽しいことだし、どうしてレジーが好きか、どうしてペイサーズを追っているのか、彼にぜひ記事を書いてもらったらどうかな?”

 ……は?

 えっと……、これって、天下のインディスターさまからの取材の申し込みってことですか??

 インディアナポリスのローカル紙に向かって“天下の”とか言うのは、まあきっとペイサーファンぐらいだとは思いますけども。インディアナポリス・スター紙、通称インディスターのスポーツ面に、これまでわたしがネット経由でどれだけお世話になってきたか、とてもとても言葉には尽くせません。日本のバスケ雑誌でもめったに大きく扱われることのない地味~なペイサーズのことを、どんなメディアよりもたくさんわたしに教えてくれたのは、まぎれもなくこのインディスターさま。この新聞においては、NBAとはすなわち“俺たちのインディアナ・ペイサーズ+その他もろもろの29チーム”という世界であって、わたしからしたらもう神の新聞ですよ! インディスターのサイトで日々ペイサーズの記事を読むということが、どれだけわたしのチーム愛を深めてくれたことか。その新聞に、わたしの記事が載るだと???

 スティーブの話では、先方は電話インタビューの形で話をしたがっているとのこと。いや電話で英語しゃべるの苦手だし、だいたいわたしのこんな英語力でインタビューになるん? ほんとにいいのわたしで??……などとためらいはあったものの、まあ、最後は不安よりも好奇心がまさりました。こんなこときっと一生に一度あるかないかだし、なんだかんだ言ったって光栄な話だし、それにひょっとして、その記事がレジーやジャーメインの目に触れることもあるかもしれないじゃん?って思って。

 スティーブに言われたとおりに記者のヒギンズさんにメールしたところ、すぐにお返事が来て、インタビューの日時や、こんなことを聞きますという簡単な内容を知らせてくれました。そんなわけで、わたしは指定された日の指定時刻に電話の前に座り、どきどきしながらベルが鳴るのを待ち……

 ……そして冒頭のやりとりになったというわけです。

 だって、そのインタビューの直前にレジーが怪我しちゃったんですよ! だからつい電話口で「レジーは大丈夫なんですか?」っていきなり聞いちゃったんですよ。それは自分でもよく覚えてますけども、そーんなに切羽詰まった声してましたかねぇ、わたし。いや実際、そこまで大事にはいたらなかったんでよかったですけども。

 ヒギンズさんはもともとペイサーズの番記者というわけではなくて、たぶん地元開催の選手権に向けて小ネタ収集にかりだされてたんだろうと思いますが、わたしがメールで「英語しゃべるの苦手だからゆっくりしゃべってくださいね~」と念を押しておいたこともあって、すごくていねいに質問してくれたし、気さくで優しいかたでした。まあ会話はそれなりに成立した……とは思う。30分ぐらいはしゃべってたのかな。

 せっかくですんで、それがどんな記事になったのか、抄訳ですけどさっきの続きをご紹介してみますね。

---

 ユミエは特別に裕福な女性というわけではない。仕事は事務職だ。小さなアパートメントで暮らしている。車は持っていない。レジー・ミラーがバスケットボールをするところを観るため、地球半周の旅をすることにのみにお金を使う。

「ええ、レジーのことは大好き」とユミエは言う。「でも、どちらかというと、人としても選手としても尊敬している、という感じですよね」

 ユミエはミラーに会ったことはないし、あえて会おうとしてみたこともない。ミラーの離婚のときも、それで元気づいたりすることもなく、むしろ悲しかったという。

 それでもユミエは大金を払って、ミラーがコートを走りまわるところを観にいく。いくぶん度を超えた行動に見えなくもないのだが。

 彼女は言う。「たくさんの友だちに言われましたよ。『クレイジーだよね。なんでそんなにレジーが好きなの?』って。答えられませんでした」

 ユミエが最初にミラーに興味を持ったのは、1994年のイースタン・カンファレンス・ファイナル、ニューヨーク・ニックスとの第5戦のときだった。彼女は家のテレビで試合を観ていた。

「スパイク・リーに首絞めポーズをしてみせたときのレジーのことをよく覚えています。すごくショッキングだったっていうか、ちょっとバッドボーイに見えたんですよ。でも、選手としてはすごいって思った。

 そのあと観たのはトロントの世界選手権でした(筆者注・ミラーは米チームをスコアリングで率いた)。そのときのレジーはすごくナイスガイで。だから私も考えを変えたんです。この人はバッドボーイじゃないって。この人すごくグッドボーイじゃないの、って。レジーがたくさんの個性を持っているところが、私の興味をかきたてたんじゃないかな。

 レジーを観ることに飽きるってことは絶対にないと思います。いろんな顔を持ってるから。彼は……なんて言ったらいいのかな……ちょっと複雑な人だと思う。それが私にはスリリングに見えるんですよね」

 ミラーのほかにも好きなバスケットプレイヤーはいるという。ペニー・ハーダウェイのファンだし、スコッティ・ピペンも好きだそうだ。それでもミラーは、ユミエの断然のお気に入りだ。

 そのミラーが右足首を捻挫した。本人はプレーすると言っているが、状態は100パーセントではない。ユミエはすでに航空券を買っている。宿の予約も済ませている。インディアナポリスに向かう準備をしていて、計画を変えるつもりはないという。

「レジーが出ないとしてもインディには行くつもりです」と彼女は言う。「でも、そうなったらがっかりですよね」

---

 そもそも自分のインタビュー記事を訳すってそうそうある経験じゃないと思いながら訳してみたんだけど、なんだこれ、思いのほか恥ずかしいもんだな! っていうか、今読み返すとほんといろいろ物議をかもす記事だなこれ……!!

 確かにさ、「仕事は何してるの? どんな家に住んでるの? 車は持ってる?」って聞かれたから全部正直に答えたんだけどさ、そのまんま書くことないじゃんね?? これじゃ「事務員をやっててウサギ小屋みたいなアパートに住んでて車も持ってないのに大枚はたいてアメリカまでレジーを観に来る」ってニュアンスじゃん???

 ユミエさんがレジーを語ってるあたり、原文で読むと、だいぶ中学生英語を駆使して必死になって説明してる痕跡がありあり。インタビューのあいだ、ヒギンズさんにも「レジーを好きなのはわかった、でもなんでそこまで好きなの?」って何度も聞かれたのはよく覚えてます。しょうがないじゃん、わたしだってもうよくわかんないんだよ。ただでさえ説明難しいのに英語で語るなんて無理に決まってんじゃん!

 あと、今読むと「レジーの離婚のとき元気づいたりもしなかった」のくだりもちょっと笑う。レジーが離婚したぞ、チャーンス!ってなる自分、ぜんぜん想像できないんだけどな。きっと女性ファンってどこでもそういうイメージなんでしょうねぇ。

 この記事はペイサーズ関連の記事ではなくて、あくまで世界選手権の記事として扱われたので、当時からまめにネット記事見てたような日本のペイサーズファンも、気づいた人は少なかったんじゃないかと思います。わたしも気恥ずかしいのでごく身近な人にしか教えなかったし、取材受けた直後にはもうインディに飛ばなければいけなかったので、この貴重な経験の余韻にひたってる時間もなかったんですよ。なおかつこの観戦旅行、われわれが機上の人になってるあいだに、すっかり波乱の展開になっちゃって。

 そうなのよ……まさかのアメリカ準々決勝敗退ですよ。

 わたし(と同行の友人2人)がそれを知ったのは経由地アトランタの空港の売店でした。なんで売店かって、当時スマホとか無線LANとかない時代でしたんでね、新聞をこっそり立ち読みするよりほかに速報を知るすべがなかったんですよ。もう崩れ落ちたよね、その場で。

 とはいえ、ぜんぜん予想外だったというわけでもなくて、2次リーグですでに一度アルゼンチンに負けてたし、なんか嫌な感じはあったんですよね。負けても順位決定戦はあったから、アメリカチームをまったく見られないまま旅が終わるということはなかったんだけど、わたしが当時やってたペイサーズのファンサイトの常連さんたちも心配してるだろうなぁと思ったし、あんなにどんよりした気分でインディアナ入りしたの、わたしの現地観戦体験のなかでも初めてだったんじゃあるまいか。

 ところが、現地ではまたしても別のサプライズが待ち受けてたんです。宿にたどりついてみると、われわれを出迎えてくれたスティーブが、びっくりな知らせを伝えてきたんですよ。

「ペイサーズの関係者が君たちに会いたがってる」

 なんと、球団関係者のかたが、前述のわたしの取材記事を読んでくれたっていうんです。それで、レジーを観るためにこんなに長い道のりを来てくれたのに、アメリカ敗退という残念なことになってしまったので、せめて何か埋め合わせになるおもてなしをしたい、とおっしゃっていただいて。もしよければコンセコ(現バンカーズライフ)・フィールドハウスのロッカールーム見学にいらっしゃいませんか、とお招きいただいたんです。もちろんオフシーズン中だからペイサーズの選手はいないし、USAチームも別のロッカールームを使ってるから誰もいないけど、レジーやほかの選手の使ってるロッカーの前で記念写真を撮ることぐらいはできますよ、と。

 だーいぶ意気消沈していたわたしたちも、もちろんこれには一気に色めき立ちました。で、先方のご指示に従って、翌日フィールドハウスに出向いたんです。

 関係者通用口みたいなところで、2人の男性がわたしたちを待っていてくださいました。ビル・ベナーさんとデイビッド・ベナーさんとおっしゃる兄弟のお2人。実はわたしはお名前を聞いて腰が抜けそうなほどにびっくりしたんですけど、お兄さんのビルさんのほうは過去にインディスターでペイサーズのコラムを書いてたかたで、わたしはずっと彼のファンだったんです(このブログに以前翻訳を載せたレジーのロングインタビュー記事もこのかたによるもの)。弟さんのデイビッドさんは長年ペイサーズの広報担当をされてるかたですが、レジーがよく試合前のルーティーンとしてトラッシュトークの相手にしてたかただと言えば、日本のペイサーファンでもわかる人多いかも。今でもペイサーズの試合中継映像見てると、ベンチ近くにいるお姿をよくお見かけします。

(これ去年の記事のようですけど、兄弟ご一緒に取材されてた記事があったので参考までに)

 ペイサーマニア的にはそれだけでも恐れ多かったっていうか、えええこの2人にロッカールーム案内してもらえるの??って感じ。通用口の受付みたいなところで係のお姉さんに入場パスみたいなのいただいて、それでいよいよ中へ案内していただいたんです。ええ、本物のペイサーズのロッカールームへ。

 よく写真や映像で見ていた場所そのまんまで、すっごいリアルでした。ロッカーの上のほうに選手の名前が入ってて誰のロッカーかわかるようになってるんですが、オフシーズンで大半のロッカーは空っぽだったとはいえ、レジーさんとジャーメインのところにだけは私物があって。噂には聞いてたけど、ほんとにこの2人ロッカー隣同士なんじゃん!とか、やっぱりレジーさんはスーパースター待遇でロッカー2個使ってるんじゃん!とか、割とどうでもいい(が、わたし的には重要な)小ネタにもいちいち興奮しました。

 ベナーさんたちからは「レジーの椅子に座ってみたかったら座ってもいいよ」と言われ、一緒に来た友だちも「じゃあ写真撮ってあげるから、まずはユミエさん座りなよ」って言ってくれたので、じゃあせっかくだからお願い……ってカメラを託したものの、いざレジーの椅子に向かい合ってみると、なんかそれだけで緊張しちゃって。だってレジーは日々ここに座ってるんだよね? これ、つまりはれじーみらーさまの玉座じゃん?? そんなことを考えながら椅子を見おろしてたとき、また誰か関係者らしき人が入ってきたんです。

 わたしはレジーのロッカーに向かい合ってたんで、誰が入ってきたか見てなかったんですよ。その人がわたしのそばまで来て、「誰のロッカーの写真撮ってるの?」って(英語で)声をかけてきたんです。

 ぱっと振り返った瞬間、まず相手の顔がぜんぜん見えなかったことだけは妙に記憶に残ってます。なんでかって、向こうがすっごく背が高い人で、日本人としても小柄な部類のわたしは文字どおり相手の顔を見上げる格好になり、そのせいで天井のライトがもろに逆光になったからです。最初は顔がぼんやりとしか見えなくて、少ししてやっとこちらの目の焦点が合って、そこにいるのが誰だかわかったとき……たぶんわたしの心臓、1回止まったと思う。

 え。

 えええ???

 わたしの目の前に立ってにっこりわたしを見おろしてたのは、誰あろう、本物のレジー・ミラーさまだったんです。

 人間ってあまりに驚くと、身体器官が正常に機能しなくなってただの阿呆になるんだなっていうのを、あのとき身をもって実感しました。頭んなか真っ白になって、ぽかんとおくちあけるしかなくて、最初にわたしの口から出た第1声は「オー・マイ・ガー」(←阿呆すぎる)。もう記憶も吹っ飛んでてあんまりよく覚えてませんが、れじーさんはたいそう紳士的に「Nice to see you!」とかなんとかおっしゃって握手してくれて、それでもわたしがボーゼンとしてるもんで笑われちゃって……

 ……気づいたら、ハグしていただいてました。ええ、レジー・ミラーさまに。

 いやまあ、われわれの身長差およそ50センチだから、ハグっつっても、胸に顔をうずめたというよりは腹のほうが近かった気はするけど、とにかくハグはハグです。ちょっと待って、今レジー・ミラーにハグされてるよわたし!? いやもうなんなのこれ、ほんとにわたしの人生に起きてる現実なの???

 とにかくわたし自身はほんとに頭吹っ飛んでたんで、レジーとそのときどんな言葉を交わしたかもだいぶ記憶があやしいんですけど、かすかに覚えてるのは、レジーが「すごく長い道のりを来てくれたんだよね」って言ってくれたこと。その言葉でわたしもようやく気づいたんです。つまりレジーは、あの記事を読んでくれてたんですよ。

 レジーがわれわれと一緒にいてくれたのはほんの数分程度だったと思いますが、一緒に写真撮ってくれたりして、もうすっごく優しくて。USAチームはその夜に順位決定戦が控えてたので、別れ際に「今日あなたのスリーポイントシュートを見られるのを楽しみにしてます」って言ったら「Yeah, I'll try, I'll try!」って言って帰っていきました。

 一応証拠写真な。

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(↑わたしがオーマイガー言ってたあたり。
このへんしっかり写真撮っててくれた友だちには感謝しかない)

Scan11849.jpg 

Scan11853.jpg 
(↑同行の2人と一緒に、
そしておなじみすみこさんイラストボード)

 レジーがいなくなってからベナーさんたちに種明かしをしていただいたところによると、やはり「レジーはあの記事を読んだんだよ」とのことでした。それで、日本のファンがわざわざインディアナまで試合を見に来るってことをすごく喜んでくれて、「この日本人をロッカールームに連れてきてくれないか」と自分から球団関係者に打診してくれたそうなんです。

 そういえば、われわれがロッカールームの前についたとき、確かデイビッドさんのほうだったか、「中に片づけておかなきゃならない物が残ってたりすると失礼だし、ちょっと見てくるからここで待っててね」って先に中に入っていって、われわれはドアの外で1、2分待たされたんですよね。今思うと、たぶんそのときレジーはすでに中にいて、われわれの到着と同時に別の部屋に隠れたか何かしたんだと思う。それって、想像すると、くっっっそ可愛くないですか???

 そのあとB&Bに戻ってわかったんですが、実はスティーブもこのサプライズを最初から知ってました。ほんとにたくさんの皆さんの連携プレーで実現したサプライズだったんだと思います。あと、アリーナの中に入るときにすました顔で入場パスくれた係のお姉さんも、通用口に戻ってきたわたしたちの顔を見たとき、にやにやして「誰に会ってきたのぉ?」って聞いてきて、どうやらこちらも最初からグルだったみたいです。お姉さんは、「レジー優しかったでしょ? あんな大スター選手なのにすごくいい人なのよ、本当に素敵な人なの」って言ってました。

 なんていうか……「コートのなかではヒールを演じてみせたりもするけど、普段のレジーはとってもナイスガイ」みたいな話はそれまでも何度も見聞きしてきたけど、まさかあんな形でそれがまぎれもない真実だと理解することになるとは夢にも思わなかった。だってさ、いくら日本から来たっつったって、こっちは一介のファンだよ? こんな手の込んだサプライズたくらむとかさ、ナイスガイどころの話じゃなくない?? NBAのスーパースターで、チームの顔で、あの当時から殿堂入りもまちがいなしって言われてたすっごい選手だよ??? サプライズ自体も見事にびっくり仰天させられたけどさ、そもそもレジー・ミラーにサプライズ仕掛けられたって事実に、いまだにびっくりしてるよわたし。

 このときから1か月ぐらいあとになって、インディスターに、レジーはファンの子どもたちにサプライズ訪問を仕掛けるのが好きだっていう内容の記事が載って、なんかニヤニヤして読んだのを覚えています。大仰なチャリティイベントみたいなことよりも、あくまでプライベートでサプライズを仕掛けるのが好きらしく、近郊の学校の生徒やら、小児科の病院の入院患者やらを突然こっそり訪問するなんてことも、かなり日常的にやってたみたいです。レジーにとってはサプライズっていう行為自体が手慣れた技だったということでしょう。

***

 あれがもう丸16年も前の話で、とうにレジーも引退しましたし、あの世界選手権の現場でプレー見てひと目惚れしたスパーズ入り直前のマヌ・ジノビリも、つい先日引退を発表しましたしね。まあ時の流れってほんとにね……という感じ。レジーが引退してからは、さすがにいくらか熱意が薄れた時期もありましたけど、それでもなんだかんだとわたしのペイサーズファンライフは続いています。

 あのサプライズ事件がなかったとしても、きっとわたしはずっとレジーファンだったし、引退後も終身レジーファンを名乗ってただろうとも思うんですけど、今振り返ってみると、あんな体験をさせてもらったことで、地元のファンやコミュニティにとってのフランチャイズプレイヤー、チームの魂といった存在の意味を、それまで以上に深いところまで考えるようになったというのはあるかもしれません。レジーの現役時代を振り返るときによく思うことなんだけど、レジーが引退するまでのわたしはまぎれもなく、ペイサーズファンという以上に“レジー・ミラー至上主義”のファンだったし、それでもレジー自身が“チーム・ファースト”のプレイヤーだったからこそ、わたしもペイサーズというチームを心から愛してこられたんだと思ってます。わたしの最愛の男にとっていちばん大事なことがチームの勝利であれば、そりゃこっちだってその方向で全力で応援するしかないじゃん?っていうね。レジーがそうやってチームに尽くしたからチームも地元のファンもレジーを心の底から愛し返したわけで、そんなの見ちゃったらこっちだってもうこのチームから離れられるわけないじゃんね。そうやって、レジーが引退したあとも、わたしは自然にチームのファンに移行することができた。本当に恵まれたファンライフだな、と思っています。

 レジーファンが言うと意外に聞こえるのかもしれないけど、チームの顔、チームの魂と呼ばれる選手が、生え抜きかどうか、チームひと筋かどうかって、わたしは元来そんなにこだわりのないたちのファンでしてね。チームの魂と呼ばれる資格って、長くひとつのチームにいたからっていう事実だけで自動的に与えられるもんじゃなかろうよって思ってるところがあって、それって逆説的な物言いかもしれないんだけど、レジーを見ていたからこそ感じることなのかもしれない。レジーがインディアナで受けていた愛情や尊敬は、決してそんな軽いものじゃなかったよって思うから。

 わたしにとっては、レジーがインディアナであれほど愛されていた理由の一端を目の当たりにできた貴重な瞬間、それがあのサプライズ事件だったような気がします。ああこの人は普段からファンの思いをこんなふうに大切にしてるんだなって、それを自分でじかに感じることができた。俺たちのレジー・ミラー、ほんと最高じゃね?って気持ちが、想像の領域から、迷いのない実感に変わった瞬間だった。

 遠くにいる自分の大好きな誰かが、たとえほんの一瞬でもこちらの感情を拾いあげてくれるなんて、今思っても恐れ多い体験だし、いやぁほんと人生にミラクルってあるんだなって思います。でも、本当は、わたしがこの人生でレジー・ミラーに出会えたこと自体が、すでにミラクルだったのかもしれません。

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プロフィール

Yumie-na

Author:Yumie-na
インディアナ・ペイサーズ極東監視団元管理人(現在HP本体は活動休止)。NBAインディアナ・ペイサーズのファン。終身レジー・ミラーファン。

出版翻訳のお仕事をしています。
[これまでの訳書]

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